Asagaya Parkside Gallerie 記憶写真

「股旅〜決闘(後) 」


まずジュンと信ちゃんが組み合った。
ガッチンと音がした。私も雅ちゃんに奇声を上げて掛かっていった。
他の者も「ヒェー!」とか「トゥワー!」とか言って開始した。
私の飛びつきに雅ちゃんは唾かけに出た。十分溜めてあった唾が私の右目に
かかり、すぐ袖(そで)で拭ったが一瞬水の中にいるみたいに見えた。
これで私は切れてしまった。「おんどりゃあー、もーう許さ―ん」
雅ちゃんが逃げるのを私が追う。石垣の回りをぐるぐる逃げては時々振り向き
ざまに唾をかける。
「おうりゃ、まてえ!」
下へ降りる道に差し掛かった所でえりを捕まえ、後ろへ引きずり倒した。押え込ん
で顔を向きあったら、また唾をかけようとした。それでちょっと顔をそむけた。その
すきにくるっと向きを変え逃げられてしまった。もーう、がまんでけん。
祠の前では、信ちゃんとジュンがさっきとおんなじ格好で組んだままだ。頭をぐり
ぐり擦り合っている。どちらも顔が真赤だ。こりゃあでい(大)勝負になっとるでえ
と横目で 思った。
雅ちゃんを押えた時は息もハアハアになっていた。
「ユウちゃん・・、ちょっとタイムじゃあタイム・・水にしょうやあ」
私ものどがからからで、足がガクガクだった。あっさり休戦を受け入れて祠に
戻ったら、まだ二人が向き合ってる。今はどっちも背中がフーフーいっている。
他の者は周りでてんでに地べたに呆けたようにひっくりかえっている。
その時、裏のほうで”びぃえーん”という声が聞こえ、ケー坊が飛び出してきた。
「竹が当たったんじゃあ、目に!」
それで、取っ組み合いも中止になった。皆で祠の後ろに移動した。またもノブオが
左目を押えてしゃがみ込んだまま、びえーびえー泣いている。
「ノブちゃんが、先に棒持ったけん、わしも真似したんじゃあ。」ケー坊が竹棒で
地面を 叩きながらぼそぼそ言う。
「こりゃあ怪我になっとるかもしれんけん、連れて帰らあ」ジュンが言った。
信ちゃんが「そんなら、わしも一緒に行かあ」。
三人が行ってしまうと急にやることがなくなった。私は隠してあった爆弾(2B弾)
と忍法花吹雪(鳩の羽と椿の花びら)の箱をを取りだし、みんなに分けた。その後
しばらくバンバン鳴らし花吹雪も宙に散らしてから、みんなでだらだら山を降りた。

家に着くと台所でごぼうを煮ていた母に、
「なにゅうしてきたんでえ、ぼっこう汚してから。外で叩くかん脱ぎねえ」
と言われた。
ズボンを手に母は表でパンパンやり始めたが、すぐに
”ひぇくしょん!”とくしゃみをした。
「まあーポケットに何を入れとんでえ、卵の殻がつぶれとるがあ・・」
それでやっと、一番の自信作を試さなかったことに気づいた。


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2008/06/06股旅〜縄張り
2008/05/30好きなもんどうしの確信〜台湾ドジョウ
2008/05/23股旅〜修行
2008/05/16頭突き28号
2008/05/09桃の花
2008/05/02あっかんべえ
2008/04/25とらぞう
2008/04/18鯛焼き
2008/04/11百万円の家
2008/04/04さくら絵具(後)
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