Asagaya Parkside Gallerie 記憶写真

「 股旅〜決闘 (前) 」



決闘を前に私たちは作戦を練った。信ちゃん家の納屋の横に新築した離れの
床下にK彦をのぞいて4人が集まった。ここは数ある集合場所でも格別内緒の
相談をする場所だ。地べたにひかれたゴザの上にそろって横になった。
風入れの小穴から届く光で皆の顔が真剣なのがわかった。
「5対5じゃのう、誰がでえ(誰)と組むんか決めんとおえんのう」信ちゃんが
キャッチャーミットを肘の下に敷き体を半分起した格好で言った。
「あっちの上はジュンじゃろう、せえとマアとコウジか」
ジュンは一年のとき私と頭突きで引き分けになった、信ちゃんより一つ上の六年
生だ。東組(私たちは中組だった)からはマアちゃん(わたしと同級の四年で「徳一」
の顔なじみ)、三年のたばこ屋のコウちゃん、あと私と同級だが動きが鈍いので
下からも軽く見られてるアキラ、それと先日泣いたノブオ。
「ジュンはわしがやるけん・・」と信ちゃんはまず言って、その後だれがだれと
指示 していった。
誰も異論はなかった。
「武器はどげんするんなあ」私が一番関心のあることを訊ねた。私は日頃から
”忍者部隊 月光”なみの弾薬(2B弾)や目つぶし(天ぷら粉と胡椒を混ぜた)
えんまく(発砲スチロールを砕いて燃やす)、忍法花吹雪(椿の花びらと鳩の
羽を混ぜた)の研究に余念がなかった。
「そうじゃのう、わしゃあ取っ組み合いになるけん武器は持っていかん、あとは
ユウちゃんにまかせらあ」
案の定まかされた。よしこれで秘密兵器を試せるぞ。考案した”えんまく”や
”花吹雪”が東組の奴らを慌てさせてるのを想像しわくわくした。

決闘日は土曜の放課後2時と決まった。私は前の日、学校の鳩小屋から糞と
わらの混じった毛を集めてきた。それとポロポロと落ちる赤い椿の花を一つの箱
に入れて、荒神様の草むらに隠した。それと、”2B弾”をマッチと一緒に石垣の
割れ目に差し込んでおいた。”目つぶし”はすでに5個作って渡してある。(これ
こそは私の自信作だ。本家のおじいさんが毎朝、生で吸ってた卵の殻を拾って
作った。針で穴を開けてあったので粉を仕込むのに都合が良かった。)
私たちは一旦全員、信ちゃん家の庭に集まった。私は念のため黒塗りの宝刀
(満田屋のおじさんから譲り受けた樫の木刀)を腰につけた。子分たちは何も持っ
ておらず、ケー坊だけが短い竹棒を持ってきた。
信ちゃん家の裏口から山に入り、私たちは荒神様に向かった。
荒神様は東の山上にあり、石垣で囲われた一段高い場所に祠が祀られていた。
祠の前は狭いが決闘には十分の空地があり、そこですでに4人が待っていた。
(アキラはやはり臆病風をふかしたのか来ていない。)
すぐにジュンが「武器はなしでえ」と言った。
信ちゃんも「おう、わかっとらあ。おいユウちゃん武器は無しじゃけん置いといて
くれえ」と言った。
ありゃりゃあ、せっかく楽しみに用意しとったのに・・私はいきなりがっくりして
しまった。
「だれでもええ、まいった言うたらおしめえ(お終い)でえ」ジュンの問いかけに
信ちゃんも「よっしゃあ」と即座に応じた。それから小声で私達に
「みな、まいった言うんじゃあねえでえ」とつぶやいた。


(つづく)

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