Asagaya Parkside Gallerie 記憶写真

「股旅〜縄張り」


股旅がええなあと思った。わしも大きゅうなったら、ぜってい(絶対)になろう。
そのためには、一家をつくって渡世人稼業もせにゃあいけん。せえから、旅に
出て、あとは風をたよりに東に西に、困ってる人を助け、悪い奴をたたっ切り、
惚れられるまえに去っていく。稼ぎは丁半バクチで、負けることはない。
宿は親分衆の家がある。
「信ちゃん、わしらあも”一家”をつくらんと前の山(Sちゃん家からは裏の山)取ら
れるでえ」
信ちゃんは私の一級上で”清水の次郎長”と頼りにしてる。私は一の子分の
”大政”だ。
「そうけえそんならええでえ、ユウちゃん、つくってくれえ」
あっさりまかされた。
私は子分を集めた。清彦、悟、ケー坊。みんな部落の「中組」(私の家の組。
他に東組、西組がある)のいとこや親せきだ。まず山の見張りからすること
にした。山は東の荒神様、西の両児神社と続いてる。その真ん中のところが
縄張りだ。
「だれか知らんもんが通ったら言うてけえ」

早速にケー坊が言ってきた。
「わしがのう、末島(私の部落)の前の山を黙って通ったらおえんでえ言うたら
のう、3年生のノブちゃんがアホらしい言うて笑うたでえ」
捨て置けない話だ。ほっておくと一家が馬鹿にされる。あいつらあ何もでけん
でえと言われてしまう。よっしゃあ信ちゃんに伝えんといけん。
信ちゃんは話を聞いて”おう、せえなら少うし脅しちゃれえ、わしゃあ野球がある
けんユウちゃんに頼まあ”。またしても任された。
次の日、私は子分たちに学校の置き傘を持って帰るように言った。
油紙の置き傘はしばらく使わなかったので、無理やり開こうよするとバリッバリッ
と音をたてた。私と子分たちは笠を差したままゾロゾロ連れなって下校を始めた。
途中、田圃にこんもりした藁山(わらやま)があったので、そこに身を潜めた。
傘は開いたままだ。やがてひょこひょこ一人ノブオが帰ってきた。
「よし、いまじゃあ!」
私が言うと、皆申し合わせた通り持ってた傘を上に放り投げた。(これは私が
最もやってみたいシーンだった。映画では、さんど傘だったが。)
ノブオは一瞬何事かと、口をポカーンと開けて立ち止まってた。
「おう、ちょっと話があるんじゃあ、おめえこねいだ(この間)わしらあの山を
わろう(笑う)たそうじゃのう」
「・・」
「どげえなら(どうだ)ほんまけえ!」
「し、知らんわあ、何も言うとらんわあ」
「うそを言うなあ、こねいだわしにアホらしい言うたろうがあ」
ケー坊がすぐに応じた。
「な、何も言うとらんわあ・・」泣き出してしまった。
こうなると手に負えない、あとで言いつけられるとまずい。
「よっしゃあ、せえなら許しちゃらあ。皆のもん引き上げじゃあ!」
私は子分に傘を拾わせ、”急ぎ足じゃあ”と駆け足で去った。
ノブオはまだ鼻のあたりを手の甲でこすったまま突っ立ってた。
ちょっとやり過ぎたかのう・・、せえでも「一家」の役目は果たしたけん、けえで
(これで)馬鹿にされまあで。

それからすぐに果たし合いが決まった。場所は東の荒神様。

(つづく)

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