お話しいただいた方々のお名前と略歴(敬称略)
藤原 秀正(ひでまさ)
農業委員として活動。また、自ら農業従事者として建部米の付加価値を高めブランド化を推進。
石井 謙吾(けんご)
岡大農学部を卒業後、ラン栽培に関わる。現在「石井洋ラン園」経営。合鴨農法による稲作も手がけている。
小坂田 英明(ひであき)
「小坂田建設」社長 平成24年「アグリファーム福渡」を設立。耕作放棄地を活用した新しい農業分野に進出。
日本の国土の7割が中山間地域で建部もここに位置します。その中山間の問題には、
過疎化、高齢化、農業担い手の減少、耕作放棄地の増加、里山の荒廃、
野生鳥獣による被害などリンクした内容が数多く挙げられます。
平成26年に行われた
アンケート調査を見ると、中山間に住む住民の95%が地域に愛着を持ち、生活の満足度は70%と高い数字です。
「できれば、ここに長く住みたい。しかし自分たちの生活は今は大丈夫でも、徐々にそうも言ってられなくなっている」
そんなジレンマが伝わります。
同年に出された
「岡山県中山間地域活性化基本方針」には「みんなで支え合う元気な地域づくり」が目標として
掲げられています。住民、行政、民間団体、企業、都市住民、NPOなど、まさに「みんな」(全員)で
地域の活性化に取り組もうと謳われています。
今回はこれらの現状を踏まえ、建部の農業を中心に三人の方にお話をお聞きしました。
(聞き手 勝部公平)
(藤原さんは農業委員をなさってますが、その役割について教えてください)
「農業委員は昔は許認可業務が多かったけど、今は農地の対応が主になっている。荒れ地や有休農地のパトロール、ここは田んぼをやってねえようだけど
どうなっとるかとか、そういった管理をしながら、できるだけ農地を荒らさないように地域としてを守っていくことが中心になっている」
(そういった尽力をされて、今、どのように建部の農業の現状をとらえていらしゃいますか)
「建部でも高齢化、担い手不足は進行していて、特に山間部では深刻で限界集落になるんじゃないかと心配している。
今は中山間直接支払制度というのがあって、5年事の補助でどうにか農地が保たれている。しかし5年後に何も進歩が
ないということになると政府がいつまでもそれを続けるか。小規模農家が多いので特にきびしいと思う。
が、私らもできるだけそうならないようにその間、努力して応援するしかない」
(後継者が育たないという点についてはどうお考えですか)
「日本全体の問題として米を作って収入を得るということが、まず難しい。1俵が1万円を切る時代、1反に8俵獲れたとしても8万円。
肥料代が3〜4万円で、すると手元に半分ほど。1町やって40万の収入。これでは、若い人が農業を継いだとしても生計が立たない。
私が思うに、初めの投資が必要だけどハウスを建てて利益の上がる果樹とかで収入を確保しつつ、そのかたわら水稲をやる。認定農業者になれば
立ち上がりの支援も受けられる。若い人ならそれをやれると思う。そして米作りも同じやるにしても、雄町とか特別栽培米とか、
健康で身体に良くてとにかくおいしい、そういうものを作っていけば付加価値が高まり収益も上がってくると思う」
(小規模農家についてはどうでしょう)
「これは、まず地域でまとまるということが大切。集落営農という方法も1つ。みんなで作り合うことで守っていくしかないのではないか。
それと勤めに出て休日だけの日曜百姓なら、子どもたちが家にとどまり後を継いで行くような家庭の和が大切だと考えている」
(最後にこれからの建部の農業の展望は)
「私は、そうは言ったけど、この建部はええとこじゃと思う。川もある、平地もある。まだまだやろうと思ったら可能性がある。
市内中心地にも近い。だから若い人が外に家を建てて戻ってこない、そんなことがないように、魅力のある地域にしていく必要があると思っている」
(新しくはじめられた「アグリファーム福渡」についてお聞かせください)
「これはまず、田んぼを作ってほしいというニーズに対応して創った会社ということです。
何故、農業法人にしたかというと小坂田建設で農業をしても、私用米ということで補助金の対象に
はならないいので新しく生産法人を設立したということです。まあ法人にすることで、利益が明確にわかるという
点もあります。個人でやってると自分の貯蓄で農機具を買ったりするので、採算があってるのか
わかりづらいですね。
で、アグリファームを創った意味については、対策を通じて耕作放棄地を少なくしていきたいということ。
それと、65才以上の定年後の働く場の確保があります。
それに併せて、農業のお客様が本業のお客さまになって頂くねらいもあります。小坂田建設という
柱があって、アグリファームがある、トータルとして成り立つと見込みました。実際に1町5反が9町3反に増えて面積が拡がってくると採算が取れ始めています」
(具体的にはどのように進めていらっしゃいますか)
「今までの農業というのは原価管理ができてなかったわけで、そこで、田んぼごとに利益を管理しよう
と考えています。その農地のどこにコストがかかっているかを分析して、対応していく。来年は土を分析して
土地ごとにどれだけの農薬が必要か、たぶん入れすぎていると思うので経験に頼るのではなくやっていこうと。
それと”福笑い米”というブランドを作ったのですが、こうしたお米を差別化させることで、より付加価値の高い商品にしていこうと考えています」
(あと、ここ建部での害獣など中山間地域の課題については)
「これはドローンですが20万ほどで手に入るわけで、こうしたITを使った対策がこれから力を発揮すると思います。
今まではどこにイノシシがいるか、被害に遭ってからわかるわけで、柵をして守るしかなかった。でもこれを飛ばして、上から
見るとどこにイノシシがいるかわかる。ならそこに行って捕らえればいい。人工知能を付けた番犬なんかもこれから可能かと。
それは一例ですけど、従来の方法にこだわらず、新しい技術を取り入れて課題を解決していく、その柔軟さが大切だと思います」
(それでも少子高齢化と農業改革が重なり、とても厳しいのでは)
「そうですね、でも考えててもしょうがないんで、やるしかないわけですよ。それに世界的に見れば食料は足りないわけで、
日本だけが余っている。それも、中国、インドが買い始めて、日本は買えなくなってきている。そういうことからして、
食料を生産していくことはますます重要になる。
それと、少子高齢化は世界的に日本が突出しているわけで、この解決策を
見出せば世界のモデルになる。それは新たなビジネスチャンスにもなりえて、
課題を逆手に取って好機ととらえれば良いわけです」
(ランをはじめられたきっかけをお聞かせください)
「家が農家でしたので、農業はええでぇと親から洗脳されまして(笑)それで、大学に進学して農学部に行ったわけです。
大学はメロンを専攻したのですが卒業して何をしようかと岡山でメロンはどうも難しい。
それと、あの頃、大規模農家はどこもすごい借金をして農業をしていて、何のためにやってるのか、
途中で破たんすることもあったり。
それで就職した会社でランを作っていたのですが、お客様からお礼を言われる、物を売って礼を言われるのはいいなあと。
建部に農業の何とかの産地といえるものがあれば強いんですけど、それもなかったので、自分でも趣味と実益を兼ねた花をはじめたんです」
(ここまでランをやってきて大変だったというか、転機というのはありますか)
「以前はフラスコで苗作りからやってたのですが、10年前、石油が高騰した折に暖房費が倍以上になって、
それで苗を台湾で作ってもらうことにしたんです。
それが良かったですね。今は5年かけて1棟づつ、7棟あるんですが、苗を作っているとこれでは狭いぐらいで、
でも育てるだけだと、10倍とか作れるんです。ピンチはチャンスでもあるんですねー」
(ラン栽培のこれからについてはどうしていくお考えですか)
「まずは花屋さんに迷惑をかけることのないような安定供給ができるようにすることですね。花にこだわりを持って売る人は、
同じ業者から買う傾向があるんです。それと花市場にも出していく。市場は売れる値段が自然と定まってくるので、
これは大いにありがたいことなんです」
(あと最近は花以外にも合鴨を使った稲作もやられてますね)
「昔、無農薬で米を作ってみたいなあと思ってたんですが、草にやられて。そしたら合鴨がいいよって言われて
5年ほど前からやってるんです。まあ田んぼから米と肉が手に入るならと(笑)。この農法の一番の恩恵は味ですね、味。
食味85までいきましたから。この辺は9月の夜の温度が冷えないので、数値は上がらないなと思ってたので、あそこまで
高かったのでまだまだ捨てたもんじゃあないなっと。お客さんがレビューで5点とかつけてくれて、おいしいと言われて
自分でも、そうかなとわかったんですけど」
(これからの岡山の農業全体についてはどうお考えですか)
「農業にかぎらず行政がやる政策というのがとても重要だと思うんです。やはりトップに立つ人は波及効果を考えた施策をしてほしいですね。
1万円使ったら10万円の効果があるというような。何でも予算を削ればいいというもんじゃなくて、回りまわって増えていくお金なら
使っていくべきだと思うんです。そういった農業政策を期待しています。
それと岡山はこれからは安全を売りにしたらいいと思います。日本一、安全なのですから、日本の真ん中に位置しているし。
そうすれば、もっともっと岡山に移住する人も増えるだろうし、農業をやろうという人も出てくるんじゃないか。
安心、安全の岡山県、そこで作られた農作物、まだまだ伝えられてないと思います」
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