お話しいただいた方々のお名前と略歴(敬称略)
佐賀 大晃(ひろあき)36歳 福渡生まれ。妻と二人の子ども、両親との6人暮らし。
福本 大輔(だいすけ)29歳 福渡生まれ。妻と子ども、両親との5人暮らし。
妹尾 優佳(ゆか)29歳 下神目生まれ。両親との3人暮らし。
昨年タネピリカ18号で「たけべを舞台に頑張る人」として佐賀牧場のお嫁さん、直さんが紹介されました。一読して「こりゃあ、大変だわ」と思いました。
朝5時半の餌やりからはじまり、掃除、搾乳、午後から餌やり、掃除、夕方、餌やり検診、搾乳と夜9時まで。出産があるとまだまだ続くことも。生き物相手なので、当然
休日もない。
私にはとてもできそうにない、でも酪農の魅力って何なのだろう?気にかかっていた。そんな折、今年の「のうさい」1月号に先ほどの佐賀牧場と
福本牧場、妹尾牧場の後継者のインタビューが掲載。その牛の目のなんとかわいいこと。そして、その後の森田市議の「もりただより新年号」にも、上の2つの牧場の
牛が北海道のコンテストで入賞とのレポートが。「えっ、わざわざ牛を連れ北海道まで?」がぜん、興味がわいてきました・・・。
(ずばり、酪農を継ぐと決めたのは、いつですか?)
(妹尾)「大学受験の時です。兄が違う方へ行ってたので、私がやるしかないかなって。それで北海道の酪農の大学に進みました」
(佐賀)「僕は大学4年の夏ですね。ちょうど公務員を受けようと書類を用意していたら、父親から電話があって、お前がやらないのならつぶすけどと言われて・・・」
(福本)「僕の場合、サラリーマンをしていて、頭の隅にいつも家のことがあったんですけど、結婚をする時にこのままだとつぶれる、今がタイミングだと思いました。
帰ってみて二人がすでにやっておったので、すごくうれしかったです」
(佐賀)「まあ、小さい頃から見ていなかったら絶対に継いでませんね」
(福本)「そう、それはありますよね」
(皆さんそれぞれの牧場について教えてください)
(佐賀)「牛の数、経産乳ですけど110頭です。1頭当たり、大体1日30L位、乳を出します。中には50L出すのもいたりします(驚)。世話は両親と妻の4人でやっています」
(福本)「うちは63頭いて、両親と僕の3人でやっています」
(妹尾)「私のところは170頭です。私と親の3人でみています」
(飼い方とかはそれぞれに違うんでしょうか)
(佐賀)「うちは1頭1頭、えさを牛に合わせて配合と量を変えてやっています。自前の発酵干し草の供給率は全体の1割くらい、あとは購入飼料が中心ですね」
(福本) 「今のところ自前の干し草でギリギリ1年賄えています。それに高タンパクのトウモロコシや大豆を混ぜご飯にして、全部同じにやっています」
(妹尾)「うちは畑がないので、餌はすべて購入飼料に頼らざるを得ません。牛舎はフリーバーンスタイルなので繋がないで自由にさせてます。餌も好きなところで
食べさせています」
(皆さんは実家の牧場を継がれたのですが、新しく自分で始めようという若い人は多いのですか)
(佐賀)「入植する人はいるとは思いますが、この辺では聞かないですね。始めるには土地と資金がまず必要ですから」
(妹尾)「漫画の”銀の匙”が話題になった頃には、ちょっとブームになったのかもしれません」
(福本)「牧場を持ってなくても、牧場の仕事をやる人はいますよ。岡山酪農組合にヘルパー登録している人とか」
(酪農をする上で大切だと考えられるのはどんなことですか)
(佐賀)「それはまず、毎月同じ頭数の牛を産ますのが、酪農家の仕事なんですが。それには継続的に乳が搾れるように妊娠させることが大切です」
(妹尾)「普通の受精だと49%がメスで51%がオス。受精卵を使えば90%でメスが生まれます。経産乳90頭いたら1割の9〜10頭のメスを
毎月産ませるのが理想なんです」
(福本) 「酪農家の規模に合った牛の数をいつもキープできるように牛を飼育することです。容易ではありません」
(毎日のこととかで大変ことって何ですか)
(佐賀)「餌やりは結構大変です。他の牧場ではロボットにやらせてる所もあるぐらいです」
(妹尾)「うちも好きな所で餌を食べれるんですが、距離が長いので餌を寄せてやるのが結構たいへん」
(福本)「毎日のこともありますが、急用の場合とかで出かける日があるとヘルパーをお願いしています」
(コンテストに行った時の話を聞かせてください)
(佐賀)「昨年の10月に5年に1度開かれる共進会主催の全日本ホルスタイングランプリが北海道であったのですがそれに出場しました。この大会はいくつか部門があるんですが、
牛としてのスタイルや美しさを競うのが主なんです」
(それに、佐賀さん、妹尾さんが出て2頭とも賞を獲るなんてすごいですね)
(福本)「僕もこの建部から共進会に入賞できる牛が2軒も出たというのは、すごいことだと思います」
(本当に、でもどうやって連れて行ったんですか)
(佐賀)「岡山県から参加した10頭いっしょにトラックに載せて、高速を行きました。秋田まで16時間ほどかかりました。そこからフェリーで苫小牧。
途中で12時間置きに乳を搾りながら。パーキングに止めてトラックの荷台の下の方から入り込んで、
2、3回、蹴とばされながら(笑)向こうについて1週間で体調を整え、コンテストに臨みました。岡山の牛たちはみんな元気でしたよ。
次は5年後、宮崎で開催です」
(これほど大事に育てても乳が出なくなると手離すわけですが寂しいとかないですか)
(妹尾)「それは、やっぱりありますよ。ですから前の日に餌をいっぱい上げたり、手ふってやったりして」(全員、笑)
(将来の目標とかをお聞かせください)
(佐賀)「早く赤ちゃんの回転率を上げることですね」
(福本)「今は現状キープできるように、やがては1人酪農できる40頭に近づけたいです」
(妹尾)「1頭当たりの能力をアップすることです」
(最後に休日とかないでしょうが、趣味とか遊びとかされてますか)
(福本)「バレーボールをやってるので、この日はヘルパーをお願いしています」
(妹尾)「私もバレーをやってましたが、最近は友達と会って食べに行ったりですかね」
(佐賀)「剣道はずっとやってますけど、そうですね、父親業が多いですね」
(どうも、ありがとうございました)
(佐賀牧場さん感想)
入賞した牛さん、とにかく脚が長い、美脚。
人間でいえば小股が切れ上がったって表現かな、贅肉のない締まった体。
天窓から陽光が差し込み、高い天井の下に取り付けられた大型扇風機がクルクル回る。
床もきれいに清掃され牛たちも気持ち良さそう。もうすぐ食事の時間・・・。
牛たちのしっぽは汚れないように1頭ずつ吊ってありました。
(福本牧場さん感想)
菱川豆腐店のおからを食べさせてもらっているここの牛は好奇心旺盛。
話を伺ってる間もじっとしていない、顔をのぞかせたり振り向いたり。
大輔さんを友達だと思っているようだ。
(妹尾牧場さん感想)
仕切りのないスペースにそれこそ好き勝手に干し草を食べてたり、
寝っころがったりのリラックス。乳牛10年、現役の大ベテラン、
お局牛が君臨。牛舎に秩序が感じられました。
入賞した牛は額のハートマークがキュートで目元が優しく、
毛並みが黒ビロードのような艶美牛です。
今まで同じ町内だったのに、はじめて訪れた3つの牧場。まず驚いたことはその牛の大きさ。私の背丈よりずっと高い、顔もでかい。
次に人なつっこい。手を出すと「ングング」と鼻で嗅ぎに来る。そして何よりも、そんな牛が何十頭もずっと先までいられる牛舎の広さ。
これをはじからはじまで、餌をやってったり、掃除をしたり、そして1日2回の搾乳。私は今、ヤギの親子を2頭、面倒をみていますが、
いやあ、この仕事はスケールが違う。
今回の取材では3つの牧場とも飼い方の違いがあることがわかりました。それは牧場経営者が牛との最適な方法を探しての結果なのだと知りました。
それと最も疑問だったこと。こんなに大変な牧場経営をどうして自分から継いだのか。その答えが見えてきました。
それは、佐賀さんの一言にあります。『小さい頃から見ていなかったら絶対に継いでません』親の姿を見て来た結果だということ。
そして、3つの牧場のどの牛もクリクリした目で主人になついて信頼しきっている、これはギスギスとした人間関係の中で働いているサラリーマンには
決して味わえない、この仕事の喜びなのだと感じました。