この時季、お百姓はどこもてんてこ舞いだったよ。
とくに蚕(かいこ)をやっている家では毎日、
桑の葉を集めに行かなくてはいけなかったからね。
それが終わったときはそりゃあ、ほっとしてたよ。
そんな折にね、家の外から「さわらー、さわらー」って
聞こえてくるんだよ。
瀬戸内海の島の間を鯛や鰆が群れになって
泳いで来るこの季節に魚の行商がやってきたんだ。
「今日は鰆をまるごと買って食べよう!」
そんな豪勢なお家もあってねえ。そういう時、
「ええなあ、あそこん家は今日は魚島じゃ」と
言ってうらやましがったんだよ。
丸ごとでなくてもね、切り身でも並んだときは
家族中で「うちも魚島じゃー」って喜んだもんだよ。
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*このお話は地元のおばあちゃん達からお聞きした内容を基に
平成25年に発行された「たけべのお話」(タネピリカ編集)より抜粋しています。